2025年も残りひと月。師走に入り、周囲が慌ただしくなってきました。
 今年最後の月刊モノローグ投稿は広瀬審判長が自身の空手人生の一部を語ってくれました!

 熊本県及び日本千唐会の審判長を仰せつかっております広瀬正和と申します。
 私の千唐流人生についてお話しさせていただきます。

 私が空手を初めたのは小学4年生10歳のときに千唐流養成館本部道場の門を叩きました。
 当時、私は病弱で喘息を患っており、病院と家を行ったり来たりの日々を過ごしていました。
 父母も私に対して寒風摩擦療法や水泳を習わせ体質改善に努めていましたが、その症状が治まる事はなく、喘息治療を目的とした学校への編入も考えていました。
 そんなある日、近くの空手道場に通っていた友人から誘いを受け、恐る恐る見学に行くことになりました。
 すると、道場生がカッコよくミット蹴りをしている姿や激しい組手の攻防に衝撃を受け、入門届を出しました。

 道場では二代目宗家先生と田中裕二先生が指導されており、マット運動やトランポリン、縄跳び等様々な道具を用いて練習していました。その頃の道場はエアコンもなく、住宅地に立地している為、夏は暑く、冬は寒い中での辛い環境ではありましたが、同級生や友人達に囲まれて楽しく稽古に励んでいました。
 やがて高校生になる頃には喘息の症状も改善し、念願の黒帯を取得する事が出来ました。

 本部道場の昇段審査には形、組手、筆記試験の他に養成館審査会の名物でもある魔の体力試験(当時、この試験が嫌で他の道場で受験する人もいた程)があり、私も2度目の受験で合格し黒帯を取得する事が出来ました。

 その頃を振り返ると、大会では諸先輩方が活躍されており、師匠でもある田中先生の試合は敵味方関係なく観る者すべての人が魅了されていました。
 国際大会では、2m近くある屈強な外国人選手を相手に、飛び蹴りや足払い、回転技等様々な技を駆使し、世界3連覇という偉業を成し遂げられ、私たち練習生にとってのヒーローでした。
 そうなると自分も大舞台で勝ちたいという気持ちが芽生えましたが・・・💦
 人生そんなに甘くもなく、学生時代はなかなか勝つ事が出来ず、黒帯取得がゴール地点となってしまい道場にも自然と足が遠のく様になりました。
 
 それから、県外の大学へ通う事になり、近くに千唐流道場がなかったため千唐流を一旦休止し、近くの格闘技道場に通いました。当時は格闘技ブームの影響で練習生も多く、そこで頂点を目指すために通常練習の他、解放されていた道場でほぼ毎日筋トレや自主トレを行い自己研鑽に努めていました。すると一年足らずで全日本格闘技大会への出場選手に抜擢され、更にテンションを上げての練習が続きました。
 しかし、試合前の強化練習中に大怪我に見舞われ、入院・手術により大学の単位も危うくなり、その後は空手と無縁の生活を送っていました。

 大学卒業後、熊本に帰郷した私は、本部道場近くの友人宅へ遊びに行った際、偶然、田中先生とお会いしました。そこで、色々話をさせていただいて「時間が出来たらまた練習においで。」と何年も会っていない私に優しく声をかけていただきました。

 そこから、千唐流復帰となりますが、当時の本部道場は一般の練習生の殆どが外国人で、私は1人で黙々とサンドバッグ相手に汗を流す日々が続いていました。
 
 そんなある日、年の近いカナダ人が本部道場へ練習に訪れました。彼は熊本の西合志町で中学校と小学校の外国語指導助手(ALT)として英語講師をしており、幼少よりカナダ千唐会で同じ時代を修行していた水野マーク先生でした。
 互いにお酒が好きなこともあり、すぐに意気投合して大会では団体戦のチームを組むようになりました。
 土曜日に飲むことが多かったのですが、彼は妥協せず、通常練習に加え日曜の早朝より自主練習を行っていました。
 私も誘われ二日酔いにもかかわらず近くの公園でウォームアップ(私にとってはハードワーク)1時間、その後、道場練習2時間を毎週行っていました。
 たまに練習に参加する仲間もいましたが皆続けることが出来ず、結局2人で練習することが多かったように思えます。
 マーク先生はきつくて挫けそうな時は熱い言葉で鼓舞し、20代後半~30代という現役選手としては決して若くない私の闘争本能を刺激し、血と汗にまみれて厳しい練習を行っていました。
 すると、徐々に勝ち星に恵まれ、千唐流全日本大会では準優勝、国際武道祭では3位入賞を収めることが出来ました。

 その後、30代半ばとなり、田中先生より指導者への道を打診されましたがまだ自分には早いのではないかと考えていました。
 そんな中、田中先生より「弱い時も強い時も経験した広瀬だからこそ、指導者として教えられる事がある。」という言葉をいただき養成館道場の姉妹道場として広瀬道場を立ち上げました。
 最初は4人ほどの生徒達から初めて、10年経つ頃には30名を超える生徒を抱え、3年に1度開催される千唐流宗家杯国際大会では、Jrの部で多くのチャンピオンを輩出することができ、現在では流派内外問わず各方面で活躍しています。

 私は千唐流を通し沢山の方々に支えられ、色んなことを学ばせていただいたことに心から感謝致します。

 今後は後世の青少年育成に力を注ぎながら、和忍・力必達の精神が宿るこの千唐流で、まだまだ沢山の素晴らしい先生方から学び、今後も会を通して「一期一会」を大切にしていきたいと思います。